studio malaparte
移動しつづける、 友よ、映画よ――「Edge in Kyoto」に向けて
なぜ、この6人なのか? 『Edge~未来を、さがす。』シネマトグラフ篇に登場する5人の映画作家と、虚構の映画作家のひとりに思いを馳せるとき、
それはあまりに私に近すぎる存在という他はありません。
更に、「Edge in Kyoto」で上映される、マエストロ(巨匠)たちの映像もまた、カメラが手渡されるその場所に、はっきりと在った友情から生まれたものです。
とりわけ同世代の5人の映画作家と積み重ねられた時間は、生きる上での楽しさや辛さ、あるいは頼りなさを互いに分かち合い、
自分たちが創ろうとしている映画にかたちを与える、待ち希(のぞ)んだ瞬間でした。
ですからこれらの作品は、単に<作家の世界>を紹介するものではなく、ましてや馴れ合った関係から生まれた映像でもありません。
一人一人の映画作家が、作品を生み出す意志と、その完成/放棄せずにおくこととの狭間をさがしだす姿を捉えたものなのです。
今回上映するシネマトグラフ篇は、番組として放映されたものをマイナーチェンジし、可能な限り高品位のヴィデオ上映システムを組んだホールの中での、<劇場版>となります。
そして、京都に劇団をかまえる演出家の大野裕之さん(劇団とっても便利主宰)ほか、多元的な活動をし続ける方々をゲストとしてお迎えし、
「イメージによって媒介された、諸個人の社会的関係」をめぐって討議してゆきます。また京都在住の映画作家野上亨介さんには、ポエトリー篇のトークに加わっていただきます。
既存の映画界に倣うのではなく、このような独自のネットワークを生むことができる京都という地には、いまだ深い、潜在的な文化力があるように思われます。
あらゆる面で共通化が進み、地域的独自性や固有性を主張し得ない現代、京都という豊かな地域性の中にあっても決して安穏とはしていられない、
多くの観客層に大きな刺激になればと思います。
スタジオ・マラパルテ主宰 宮岡秀行
スタジオ・マラパルテが瀬戸内の孤島、鷺島を舞台にこれまで成し遂げてきた活動と呼応するように、今後の新たなポイエーシス(制作)の方向性を指し示すシリーズ第一弾。ゲスト河村悟と架空の「鷺ポイエーシス」を行い、映画の原野ともいうべき白いスクリーンの謎を探検し尽くす。
●「きみはヒロシマで何も見なかった~第一章」(30min.)
監督/立案:諏訪敦彦
出演:諏訪敦彦+町田康
『M/OTHER』で国際的に評価の高い広島出身の映画監督諏訪敦彦。故郷ヒロシマをテーマとした新作『H story』の原点となるヴィデオ・シナリオ「Hiroshima/私の愛する人…」(マラパルテ制作)をもとに、諏訪にとってかけがえのない“映画のふるさと”ヒロシマを、最も過激に追求した作品。
●「母モニカ~for a film unfinished」(60min.)
ポイエーシス(制作):三好暁+宮岡秀行
出演:三好暁+中根以久美
安定した強い制作基盤を持たないインディペンデントの映像作家は、どのように創造に立ち向かっていけば良いのか? 『シアワセの記号』によってぴあフィルム・フェスティバルでW受賞した大阪在住の三好暁、その後の彼女の生と創造の葛藤を、変貌を遂げていく若い母性の姿を通じてとらえる。
●「飛之夢~fly fly away」(45min.)
ポイエーシス:西原多朱+宮岡秀行
出演:芒克(まん・く)+李纓(り・いん)
李纓の未公開の新作『飛呀飛(フェイ ヤ フェイ)』に迫る中国ロケ。著名な詩人芒克をはじめ出演者へのインタヴュー、新作からの引用、東京で撮影されたミレニアム前後の日本の光景が複雑に絡まり合って構成されている。李はデヴュー作『2H』で各国から高い評価を得た、期待の新鋭監督。
●「HOTEL CHRONICLES」(30min.)
ポイエーシス:野上亨介+西原多朱
出演:青山真治+菊池信之
大作『EUREKA』で世界的な評価を得た青山真治。無名時代から親交の深い宮岡秀行との会話を通じて、その信念と映画への愛を語る。番組全体は、スタジオ・マラパルテならではの刺激的な青山真治論となっている。京都在住の映画作家野上亨介との共同制作。
●「no breath, no love*仮」(60min.*仮)
ポイエーシス:宮岡秀行
出演:安藤尋+宮岡秀行
今後最も期待される若手監督の一人として、注目を集める安藤尋。魚喃キリコ原作、女子高生の友情と愛情を描いた最新作『blue』(第24回モスクワ映画祭最優秀女優賞受賞)を中心に、十代からの親友である宮岡とともに、安藤尋の静かなるエモーションを映し出してゆく。
●『Celebrate CINEMA 101 *デジタル・リマスタリング版』(1996/2001/58min.)
監修:宮岡秀行+織田要
参加:ビクトル・エリセ+ジョナス・メカス
宮岡秀行の処女作。映画生誕100年目の1995年秋に世界各地を駆け巡り、マルコ・ベロッキオ、ビクトル・エリセ、ロバート・クレイマー、青山真治、ジョナス・メカス、ロブ・ニルソン、アレクサンドル・ソクーロフといった錚々たる映画作家達に、いま映画を撮ることの意味を問う。本年度イタリアで開催された第一回ヨーロッパ文化祭に招待された最新決定版。
●『Winter Oranges』(2000/73min.)
監督:ロブ・ニルソン+諏訪敦彦
出演:内田千恵+中田馨
鷺島で行われた「鷺ポイエーシスII─transfiction」のワークショップを通じて、アメリカのインディペンデント作家ロブ・ニルソン監督と諏訪敦彦により共同制作された作品。「島」という限定された条件に生きる若者の葛藤が、厳しい制作条件を乗り越えて作品を生み出そうとする強力な意志のもとに描かれる。
●『サンクト・ペテルブルグ日記―フラット・コージンツェフ』(1998/45min.)
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:コージンツェフ夫人
現代ロシアの巨匠、映画監督アレクサンドル・ソクーロフが、偉大な先達コージンツェフを対象にしたドキュメンタリー作品。生前のコージンツェフが住んでいた家を丹念に描写する映像と、空気の震えまで捉えようとする繊細な音響は圧巻である。「鷺ポイエーシスIII─ソクーロフ アイランド」で一度だけ上映された、ソクーロフの最高傑作の一つ。