studio malaparte
今回スタジオ・マラパルテは、現代ロシアを代表するアレクサンドル・ソクーロフ監督を招き、日本未公開の知られざる傑作を中心とした上映会と、 各分野の創造者たちを交えてのレクチャーを行います。
「国際映画祭の寵児」と言われ、これまで様々な賞を受賞してきたソクーロフの映画は、日本でも数多く紹介されてきました。 日本を舞台にした作品も撮り、多様な現代的価値を持つ試みとして国際的にも高く評価されています。 しかし、集団作業をなし得る真に創造的な場でソクーロフの総合的(トータル)な作業が捉えられたかというと、そうではなく、一部の作家主義的な範囲で消費されているのが現状です。 それは同時に、日本で映画を楽しみ、作るという行為を偏ったものにしてしまいかねません。
そこで今回のセミナー&フェスティバルでは、映画を作るという作業がいかに時間と空間を巻き込んで行われるかを、実際の作品や対話を通じて見てゆきます。 上映する作品は、ロシアの作家ドストエフスキー、ソルジェニーツィンを題材とした日本未公開のドキュメンタリーなど6作品。 また第三帝国の首領を独自の視点から捉えた日本未公開映画『モレク神』を、劇場公開版よりも長いTV放映ヴァージョンで特別上映します。 当セミナーのプロデューサーである宮岡秀行も助監督として参加しているこの作品は、 本年度カンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞、今世紀をしめくくるレクイエムとして注目されています。 それに先立ち、セミナーでは「建築、音楽、身体、アングル」をキーワードに、 国際レベルで活躍する日本人創造者たちがソクーロフと相互侵犯する形でレクチャー&ディスカッションを行い、これまでにない視点から彼の世界に迫ります。 さらに、静岡県舞台芸術センター芸術総監督であり、この夏、世界20ヶ国が参加した「シアター・オリンピックス」を成功させたばかりの演出家・鈴木忠志とマラパルテの宮岡が対話。 ソクーロフにもリスナーとして参加してもらいながら、現在世界的に進んでいる文化空間の群島化に焦点をあて、島国日本の「文化私観」を鍛えることで、 21世紀へ向けた新しい関係のあり方を描いてみせます。
スタジオ・マラパルテでは、国籍や世代を越えた出会いを探り、新しい時代に対応しようとする〈超ジャンル〉としての映像表現の醍醐味を、 観客とともに深めてゆきたいと考えています。ソクーロフとともに過ごす二日間から来世紀へと、蝶番をしっかりとつないでゆく「ポイエーシス(創造)」にご期待下さい。
スタジオ・マラパルテ
date '99.10月9日(土)~10日(祝)*2泊2日/11日朝解散
place 広島県三原市 佐木島/"さぎしまセミナーハウス"&"佐木島コテージ"
1)シンポジウム「ソクーロフ アイランド」ソクーロフ+フョードロフ+諏訪敦彦+宮岡秀行
2)レクチャー1「建築等 ソクーロフとの接線」鈴木了二+中谷礼仁+ソクーロフ
3)レクチャー2「キャメラを持った男―風景を組み立てる」吉岡康弘+フョードロフ+みやこうせい
4)レクチャー3「映像は脚、音は私の魂」近藤譲+鈴木治行+ソクーロフ
5)対話「新しい関係の創造へ向けて」鈴木忠志+宮岡秀行
6)映画上映 *全作アレクサンドル・ソクーロフ監督、ヴィデオ作品、日本未公開
『ロベール―幸せな人生(ROBERT. A FORTUNATE LIFE)』
'96, 26min., Hermitage Bridge Studio
『ペテルブルグ日記―ドストエフスキー碑の発見(THE PETERSBURG DIARY. DISCOVERY OF A MONUMENT DOSTOJEVSKI)』
'97, 45min., Studio Nadezda
『ペテルブルグ日記―フラット・コージンチェフ(THE PETERSBURG DIARY. A FLAT KOZINTSEV)』
'98, 45min., Studio Nadezda
『ソルジェニーツィンとの対話(LECTURES WITH SOLZENICYN)』
'98, 104min., Studio Nadezda 出演:アレクサンドル・イ・ソルジェニーツィンほか
『オリエンタル・エレジー―ロシアン・ヴァージョン(ORIENTAL ELEGY. RUSSIAN VERSION)』
'96, 44min., North Foundation, NHK, Lenfilm, SONY
7)特別試写作品『モレク神―特別版(MOLOCH. DIGITAL VERSION)』
ワールド・プレミア上映
監督来島により、一回限りの特別上映 '99, 120min., Lenfilm, zero film, Fusion Product
■アレクサンドル・ソクーロフ
映画監督。51年生。サンクト・ペテルブルグ。79年レンフィルム等で映画製作を開始。87年までに製作された作品はことごとく公開禁止となり、ペレストロイカによりようやく公開。ベルリン映画祭をはじめ世界各国の映画祭で受賞。その一作一作が世界の注目を集める、ロシアを代表する映画監督である。作品:『孤独な声』ロカルノ映画祭銅豹賞、モスクワ映画祭アンドレイ・タルコフスキー特別賞、『日陽はしづかに発酵し…』ベルリン映画祭OCIC賞、ヨーロッパ映画賞・審査員特別賞、『静かなる一頁』ストックホルム映画祭ベスト・シネマトグラフィー賞、『精神(こころ)の声』ロカルノ映画祭ソニー賞、『ロベール―幸せな人生』オーバーハウゼン国際短編映画祭大賞、『モレク神』カンヌ映画祭最優秀脚本賞など。
■李纓[り いん]
映画監督。63年生まれ。中国・広東省。中国中央電視台のディレクターとしてドキュメンタリーを制作後、文化庁の海外招聘芸術家研究員として日本に留学、日本映画の研究の傍らプロダクション龍影を設立。『2H』(1999年ベルリン映画祭NETPAC賞受賞)がデビュー作となる。第二作となる『飛呀飛(フェイ ヤ フェイ)』は、2001年度ベルリン映画祭へ出品され、高い評価を得ている。
■鈴木忠志[すずき ただし]
演出家・静岡県舞台芸術センター芸術総監督。39年生。東京/静岡。66年劇団SCOTを創立。岩波ホール、水戸芸術館芸術監督を経て現在に至る。独自の演技理論に基づく俳優訓練法“スズキ・メソッド”は世界各国で学ばれている。世界演劇祭「利賀フェスティバル」「シアター・オリンピックス」等を開催。作品:「イワーノフ」「エレクトラ」「オペラ リアの物語」(作曲:細川俊夫)、著書:『演劇とは何か』(岩波新書)、『演出家の発想』(太田出版)など。
■近藤譲[こんどう じょう]
作曲家。47年生。東京。70曲以上の幅広い作品を作曲、欧米でも広く、頻繁に演奏されている。また数多くの委嘱作品も手がけ、国際的にも高い評価を得ている。エリザベト音楽大学教授、また東京芸術大学でも教鞭をふるう。作品:「林にて」尾高賞、アルバム:「梔子(くちなし)」「彼此(おちこち)」(共にALM)、著書:『現代音楽のポリティックス』(風の薔薇)など。
■吉岡康弘[よしおか やすひろ]
写真家・撮影監督。34年生。岡山。写真家としてスタート、マン・レイに激賞される。60年代、オノ・ヨーコ、足立正生、武満徹、土方巽などとの交遊から映画界に入る。作品集:『アヴァンギャルド60's』(新潮社)、撮影監督作品:『絞首刑』、『少年』、『KYOTO, MY MOTHER'S PLACE』(以上大島渚監督)など。
■諏訪敦彦[すわ のぶひろ]
映画監督。60年生。東京。石井聡亙、山本政志などの助監督を務める一方、90年よりテレビ・ドキュメンタリーの演出を手がける。97年『2/デュオ』でデビュー。ウィーン・ビエンナーレ'97国際批評家連盟賞などを受賞。また最新作『M/OTHER』で今年度カンヌ国際映画祭批評家連盟賞を受賞。「鷺ポイエーシス」にはレギュラーで参加。
■鈴木了二[すずき りょうじ]
建築家。44年生。東京。鈴木了二建築設計事務所主任。また早稲田大学教授として教鞭も執っている。70年代前半より自作に『物質試行』と冠し、建築、美術、家具などを発表。また「建築文化」98年12月号で総力特集が組まれている。作品:耕雲寺(『物質試行33』)、佐木島コテージ(『物質試行37』97年度建築学会賞受賞)など。
<コメンテイター プロフィール>
■中谷礼仁[なかたに のりひと]
建築史家。65年生。大阪。早稲田大学理工学部建築学科修了。大阪市立大学建築学科講師のかたわら、建築等学会の運営も行う。雑誌「10+1」(INAX出版)に美術家岡崎乾二郎と建築の解體新書を連載中。著書:『国学・明治・建築家』(一季出版)『建築巨人 伊藤忠太』(共著、読売新聞社)など。
■鈴木治行[すずき はるゆき]
作曲家。62年生。東京。95年「二重の鍵」が第16回入野賞受賞。音楽と芸術の総合イベントや個展など、精力的に活動を続けている。また『M/OTHER』(諏訪敦彦監督)、『セレブレート シネマ 101』(宮岡秀行監修)などの映画音楽を務めている。作品:「Sunrise」、アルバム:「システマティック・メタル」(HAL)など。
■みやこうせい
文筆家・写真家。37年生。東京。ソクーロフの日本での最大の協力者の一人。世界を旅する写真家、エッセイストとして著名。昨年パリ・シャイヨ宮にてルーマニアを題材にした写真展が開かれ、絶賛を受ける。写真集:『ルーマニアの赤い薔薇』(日本ヴォーグ社)、著書:『森のかなたのミューズたち』(音楽之友社)など。
■児島宏子[こじま ひろこ]
ロシア語翻訳・通訳家。東京。ソクーロフが最も信頼する通訳(パートナー)として、ソクーロフ監督の日本での活動を全面的にサポート。訳書:『チェーホフが蘇える』(書肆山田)、『ソクーロフとの対話』(河出書房新社)など。